ワーキングマザースタイル【幸せな仕事―1主婦の起業物語】第6回インプットとアウトプット




2006年09月17日

【幸せな仕事―1主婦の起業物語】第6回インプットとアウトプット

Posted by fellow

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それからの私はまた急に忙しくなった。
Web制作チームのHappyWeb工房を作ってすぐに、いきなり大きなプロジェクトにもかかわることになり、なおかつPC講師の仕事も多くなってきた。
ちょうどPCやWebの進化とともに私の仕事もよりスキルアップを求められ、それと歩調を合わせていくのはなかなか大変だった。
2000年~2004年まで私はこの両輪で仕事を続け、昼は講師、夜は制作という具合に行なってきた。
子供が大きくなって来てからはその逆もあり、夜間講座で毎晩帰りは深夜になったこともある。
でも講師と制作を両方行うことはどちらのスキルアップにも有効で自分にとってはベストな形だった。

政府が支援した初心者向けのIT講座も一通りの波を過ぎると、一般のITに関する認識は高まり今度は講師にも、もっとスキルアップした技術とノウハウが必要になった。
私は念願のWebデザインの講師として、再就職支援の3ヶ月講座などを任せられることになった。

ここでは企画から始まり、HTML、CSS、JavaScript、CGIなどの言語、フォトショップ、イラストレーターなどのグラフィックソフト、MacromediaのDreamweaver Flash FireworksなどのWeb制作系ソフトの習得を行い、実践にも耐えうる卒業課題の制作までを面倒見る必要があった。

講師も制作もインプットとアウトプットを繰り返す仕事だ。自分の中がカラだと教えられることができないし、クライアントを満足させるものもできない。上っ面の知識では人はついてこないのだ
自分にしかできないことが増えるのは充実感はもちろんあるけれど、実際1人でこなすのはかなり厳しいことだった。アウトプットの2倍のインプットが必要であり、私は仕事以外の時間は夜昼なく勉強することになった。特にプログラミングに関わることは本来得意でなく必死で頑張ってもなかなか辛いものがあった。
また長期講座は、何人かのサブ講師や、場合によっては担当を分けた講師と一緒に行なうことも多かったので、これまでと違う組織のあり方や講座の進め方、講師同士の人間関係で悩んだりもした。
このころから土日祭日一切無く睡眠時間も極端に減った。
「実務経験の豊富な講師」「講師もできる(人に分かりやすく話せる)Webデザイナー」が私の「売り」になったけれど、詰め込みの仕事、プライベートもほとんど返上しての仕事の仕方は、やはり家庭にも健康にも影響しはじめた。

まず家庭では連れ合いと口をきく機会が減った。そのころ連れ合いの仕事もIT化の余波を受けいろいろ難しい問題もあり、本来もっと親身になって話を聞いてあげるべきだったと思う。でもその時はそれを受けとめている余裕がなかった。PCに向かう背中越しに機嫌の悪さを感じながらもスルーしていた。そして下の娘は学級崩壊の影響と少し早めの反抗期で小学校の高学年で荒れはじめていた。かっこも派手になり、仲間とつるんでゲームセンターにも行くようになり、いじめに荷担したり逆にいじめられたりして勉強どころではなくなっていた。なんとなくぎくしゃくとした家族関係、問題を感じつつも立ち向かいたくない、現実を直視したくないという気持ちもありますます仕事に没頭した。

また体調面では激しい肩こり(文字通り首がまわらない状態)と膀胱炎に頻繁になるようになった。
首にものすごく痛い注射を6本も打って、どうにかしのいだりもしたが所詮一時凌ぎだった。
冬になると咳が何ヶ月も止まらず、毎日40人の前でマイクもなく大きな声を張り上げるのは辛かった。
そのころのお盆や正月休みはいつも死んだように倒れていたように思う。

「やはりこれでは持たない。子供や家庭のために働いているのに(もちろん自分のためでもあるんだけれど)家庭が崩壊したら本末転倒だし、自分が働けなくなったらそれこそ長女の学費を払うことさえ困難になる。」自分自身が本当は1番限界を知っていた。それでも認めたくない気持ちもあり日々揺れていた。

ある時、下の娘のグループが起こした問題で学校から呼び出された。
よくドラマにあるみたいに「ウチの子はそんなことをするわけない」と思ったけれど、激しく問い詰めると認めた。
そのことをキッカケにようやく私はブレーキを踏む決心ができた。娘に手をあげて、そのあと抱きしめて一緒に泣きながら一晩話し合い、もう一度ちゃんと向かい合ってやり直そうと誓った。

実際にはそれで仕事をやめたわけではない。でも何がなんでも自分で全てかかえるような仕事の仕方は改めた。それまで正直多少のうぬぼれもあった。「これは私でないとできない。他には任せられない」と。
でも本当はそんなことはないのだ。私に得意なこともあるけれど、他の人に得意なこともあり、私がいなくてもそれなりに仕事は回る。そんなことがようやく分かった。

娘も6年生になって私立受験を決意し、これまでの反省を含めて頑張るようになった。
遅いスタートだったがやれるだけのことはやろうと話し合った。仲が悪かった姉妹関係もほぐれて、また家族の歩調も合ってきた。

「母親が仕事に夢中になること=家族の崩壊」ということはない。ちゃんとバランスをとっている人だっていくらだっている。でも私はまわりが見えていなかったのですこしばかり気付くのが遅くなってしまった。

仕事ばかりでなく家庭にもインプットとアウトプットが必要だ。ちゃんと暖めて溜め込む必要があり、そして充電できればその原動力で外へ向かう。家族のみんながそういう気持ちをもって入れば少々忙しくても大きな問題は起こらない。

ワーキングマザーに必要なことは家事をぬかりなくやることでも、子供の勉強に付き合うことでもない。手抜きはしたっていい、でも家族をちゃんと見ることだけは怠ってはいけないと思う。家庭は家族が充電する場所だ。みんなが充電するために主婦が1人で頑張らなくてもいい、親も子供も夫婦もそれぞれがきちんと家庭でインプットしようと意識すれば、それぞれが仕事に学校に元気良くアウトプットしていけるのだと思う。ただそういう方向に舵をとるのはやはり主婦の役目だと思った。

いい状態でインプットできる家庭作りは口で言うほど簡単ではないし、今でもちゃんとできているかといわれれば3歩進んで2歩下がるようなところもあるけれど、こんなことがあってある意味肝が据わったというのはあると思う。
転んで立ち上がるたびに少しずつ人間って強くなっていくのだろう。そういう意味では転ぶことも無駄ではない。
この先家族にどんなことがあってもすべて自分の責任として受け止めていこうという『覚悟』はできた。
そしてそれはきっと仕事をする上でも大事な『覚悟』だったんだと思う。

娘は翌春受験に合格し、そして連れ合いは転職した。
人生でもっともお金のかかる時代に突入した、仕事はやめない。そして母もやめなければ妻もやめない、もちろん人間もやめない。
インプットとアウトプットをバランスをとっていくことがワーキングマザーの生きる道だと悟った。






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コメント

ゆりさん、すばらしいです!FlashやIllustrator、教えてもらってやるのでさえ、すごく困難なのに、それを教えるレベルまでの勉強ってどんなかなーと考えただけでめまいがしそうです。しかも言語となったら(◎-◎)・・・それをいろんな事と同時に進めていたなんてすごすぎる!まさに、暴走機関車!←冗談です・・

家庭の事も大変でしたね。ゆりさんは、いろんな事に穏やかで寛容な家庭で素晴らしいなあと常々思っていました。ずーっと何事もなく穏やかだった家庭ではなく、波乱があって、その波乱を家族で力を合わせて乗り越えて来た事で手に出来る最良の家庭だったんですね!私も娘が小学校高学年になりました。ゆりさんみたいに正面から向き合って行きたいと思います。何かあったら相談に乗ってくださいね!

なんかドラマ化してほしいようなすばらしいお話ですね。感動しました!

Posted by: こむぎ at 2006年09月17日 08:30

ママとして、ちょっと先行くゆりさんの体験、大変興味深く拝読しました。「目を離すな!」の提言、肝に銘じます。ありがとう。

Posted by: 京太 at 2006年09月17日 13:41

ゆりさん、本当に素晴らしい内容で、一気に読ませて頂きました。本当にいろんなことがあったのですね。

仕事と家庭の両立の難しさが、ひしひしと伝わってきました。ワーキングマザーが抱える、一番大きな問題だと思います。永遠のテーマですよね。

「母親が仕事に夢中になること=家族の崩壊」ということはない。

この言葉に重みがありますね。私も仕事をし始めるとブレーキがかからないところがありました。ゆりさんほどお忙しいお仕事はしていませんでしたが、家族を犠牲にしていた、という罪悪感を持っていました。

今は、先のエントリにも書きましたが、自分のライフスタイルを見直して、家族の優先順位を1番にしましたので、すごくラクになりました。そして、仕事の方も、私を助けてくれる人間が、10月に雇われる予定です。責任者のポジションについてから、悩みながら苦しみながら、2年ほど働いていたので、すごく喜びを感じています。

次回のストーリーを楽しみにしています。

Posted by: みどり at 2006年09月17日 14:22

わたしが、HMNのMLを通して、猫のリオちゃんをお預かりしたのは、孤軍奮闘の前ぐらいでしたか?
ゆーりんさんの活躍は、めざましいと羨望しながら、わたしも細々と改革を計ってます。

Posted by: せいみい at 2006年09月17日 21:29

たくさんの仕事を何気なくこなされていると思っていたのですが、大変なご苦労があったのですね・・。私もPC講師の端くれ、とても参考になりました。
でも、体を壊したり、家族がばらばらになったりしては元も子もない・・。それもわかります!
家庭と仕事のバランス、とても大事ですね。

Posted by: TAKO at 2006年09月18日 10:54

>「母親が仕事に夢中になること=家族の崩壊」ということはない。

>家庭にもインプットとアウトプットが必要だ。

>手抜きはしたっていい、でも家族をちゃんと見ることだけは怠ってはいけないと思う。

深いお話、ありがとうございます。

家庭というのは、休んでエネルギーを養う「再生産」の場なんですよね。

質のいいインプット、アウトプットができるような環境づくりを意識したいと思いました。

20の質問のほうも、とても興味深かったです!
コメントするタイミングを逸してしまいまして、ここに書かせていただきました・・・。

Posted by: るか at 2006年09月19日 00:15

こむぎさん
Web制作者って全般的な知識はやはり広くないといけないんですよね。その中で得意不得意はあっても仕方ないんですが。かつてはたしかに暴走機関車みたいでした。私は決して器用には生きていないので、参考になることも多くはないと思いますが、何かあったら言ってください。

京太さん
見守るっていうのは難しいことですよね。
つい、よくわかりもしないのに口だけ出して煩くいってみたり、逆に子供より先に道を作ってしまったり。
子供の自主性と判断に任せながら、ポイントをはずさず親の意見もいうことは、やはりよく見ていないとできないですね。自分ができているかといえばそうじゃないですよ。ただそうありたいと思うだけです。

Posted by: ゆり at 2006年09月19日 00:17

みどりさん
理想論をいうようだけど、家族って誰かが犠牲になるものでもないと思うのですよ。これまではやはり主婦が子供や夫や夫の家族のために自分を犠牲にすることが多かったと思います。子供がうんと小さいときはともかく、ある程度自立できたら、でも誰も犠牲にならない家族のあり方を考えていきたいですよね。

Posted by: ゆり at 2006年09月19日 00:21

せいみいさん
そのせつはRIOをあずかってもらってありがとうございます。せいみいさんの改革も今度聞かせてくださいね。

TAKOさん
講師を続けていらっしゃるんですね。何気なくこなしてなんてないですよ。私は日々必死ですよ。かなり労働者って感じです。

るかさん
休んでエネルギーを養う「再生産」の場、主婦だってその恩恵にあずかりたいじゃないですか。子供や夫とすごすことが充電に繋がる、誰かひとりがそれを支えるのではなくて、みんながそのオーラを持ち寄れればいいですよね。


Posted by: ゆり at 2006年09月19日 00:27

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