「大渡海」という広辞苑タイプの中型辞書を作る部署の人達のお話。
あらすじは・・・
玄武書房に勤務する馬締光也(松田龍平)は職場の営業部では変人扱いされていたが、言葉に対する並外れた感性を見込まれ辞書編集部に配属される。新しい辞書「大渡海」の編さんに従事するのは、現代語に強いチャラ男・西岡正志(オダギリジョー)など個性の強いメンツばかり。仲間と共に20数万語に及ぶ言葉の海と格闘するある日、馬締は下宿の大家の孫娘・林香具矢(宮崎あおい)に一目ぼれし……。
去年の夏、友達から本を借りて読みました。
私、辞書を読むの大好きで、中学・高校・大学と授業がつまらない時、よく辞書を読んでいました。内容を読むというより、かわいい言葉や素敵な言葉を探して書きとめていました。バンドをやってて曲を作ったりしてたから。
辞書は大好きだったけど、辞書がどうやって作られているかなんて、この本を読むまで考えた事もなかった。辞書に載っている言葉の意味なんて昔から変わらないと思っていました。
実は辞書は、なみなみならぬ苦労と気が遠くなるような期間をかけて、めちゃめちゃアナログな方法で作られていました。そして辞書のための紙も特注で漉いてもらっていたなんて知ってました?指にしっとりと吸いつくような手触りにするために厚さや素材を変えてこだわっているのです。
この映画は「辞書の編集部」という地味〜な部署のお話で、音楽もほとんど使われていないので、華々しいところは本当にまったくと言っていいほどありません。
でも、その地味さがとっても上手に作りこまれていました。
辞書編集部は映像で観ただけでくしゃみが出そうなほこりっぽさと雑多な感じ。馬締が住んでいる「早雲荘」は時間が止まったような昭和な感じ。キッチンのタイルを貼った流し台など「ふるかわいい」演出もありました。馬締の住むお部屋は、まるで「私設図書館」のようでした。
見出し語は一語一語「用例採集カード」というものに手書きで記入。昔から変わらず載っている言葉はもちろん、「ダサい」「まじ」「PHS」や「BL」など現代語も採用。その収集シーンも楽しかったです。そのカード数の膨大さと、カードごとの古さの度合いがいろいろでとってもリアリティーがありました。
この映画の全編にわたって小学校の図書室のにおいが満ち満ちていました。
辞書作りは忍耐と根気。よくこの事を小説にしようと思いついたな〜と感心。「風が強く吹いている」も「まほろ駅前多田便利軒」も映画化されているので、きっと、これも・・・と思い、途中からキャストを想像しながら読みました。
この地味〜な映画を笑顔あふれるものにしているのが、キャストの方々。
私は馬締君は伊藤淳史さん、香具矢さんは吹石一恵さんか杏さん、西岡は小出恵介さん・・・・と考えていました。
映画のキャストが発表された時にはものすごく違和感があったのですが、映画を観た今となっては馬締君はもう松田龍平さん以外には考えられないほど。はまり役でした。
馬締はだっさくてさえない人なので松田龍平さんではステキすぎる・・・と思っていたのに、見事にダッサダサで「流行」などというものにまったく関心がないけれども、言葉に対する素敵なセンスを持つとってもピュアで唯一無二の人を見事に演じていました。ダサダサなのにラブリーなんですよ。馬締君が使う日本語の美しさも素晴らしかったです。
西岡役はオダギリジョーさん。チャラくてお調子者だけど根はまじめできっちりやる。馬締とはまったく別の意味で辞書編集部になくてはならない人物。ビジュアルも含めてはまり役でした。
一緒に映画を観た友達は「加藤剛の松本先生がピッタリ!池脇千鶴があの時代にぴったりだった〜!」と言っていました。
「東京オアシス」で初めて観て、その後「草原の椅子」「まほろ駅前番外地(ドラマ)」にも「あ、出てる!」と思ったらこの映画にも出ていた、最近私が注目している黒木華(はる)ちゃん。華々しいファッション雑誌の編集部から地味すぎる辞書編集部に移動して来たOLの役を上手に演じていました。
「辞書を作る話。興味ないし。」・・・という人にもぜひ観てほしい。この地味な映画にはたくさんの爆笑ポイントがいっぱい!そして登場人物がみんな生き生きとしていてとってもキュート!
誰と観ても楽しめる映画です。ぜひぜひ。
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辞書と言えばこの本。「新解さんの謎 (文春文庫)」「新解さんの読み方 (角川文庫)」すごくおもしろいから、だまされたと思って読んでみてください。抱腹絶倒。辞書にここまで意思と個性があろうとは。
かならず「新明解国語辞典」を買いたくなるから。
新解さん、はげしいですよね。特に「恋愛」が。
大学生の時に英和辞典の編集の仕事をほんの少しだけバイトで手伝いました。すごい手間がかかっていて、辞書に載っているすべての語にこんなに手がかかっているんだなあと気が遠くなったことを思い出します。
ことばが好きなので観てみたいなあ。