投稿者 村山らむね
■子供がいるからという理由で物事を諦めるのは、子供を盾にした自分への言い訳
- 今回はインタビューのお時間をいただき、本当にありがとうございます。憧れの雨宮さんとこうしてお話することができて本当に嬉しいです。
超有名人でいらっしゃるので、ご存知の方もたくさんいらっしゃるとは思いますが、現在までのキャリアの軌跡を簡単に教えていただけますでしょうか。

撮影:篠あゆみ ヘアーメーク:瀬川真奈美 『小さなパリジェンヌ』(小学館)より
雨宮塔子さん(以下 雨宮さん):1993年にTBSアナウンスセンターに入社し、6年間アナウンサーとして勤務しました。1999年3月に退社して渡仏、パリで暮らし始めました。
- 雨宮さんの退社は私にとってもすごく衝撃だったのですが、29歳という年齢で、人気絶頂のこの時期にリセットというか退社されたのは、どのようなお気持ちがあったのでしょうか?
雨宮さん:30代をどう生きるかというのを入社してから考えるようになって、30代を迎える前にスタートを切りたかったんですね。それで29歳という半端な年齢だったのですが、私の中では実は確信犯的に準備を進めていました。
1970年、東京生まれ。
TBSの人気アナウンサーとして活躍
1999年、TBSを退社し、単身パリに遊学。(ルーヴル美術館美術学校)
2002年、フランス在住のパティシエ・青木定治氏(「パティスリー・サダハル アオキ パリ」オーナー)と結婚。
2003年に長女を出産
2005年に長男を出産
現在はパリで子供を育てながら、フリーキャスター、エッセイストとしても活躍。著書に『金曜日のパリ』(小学館)、『それからのパリ』(祥伝社)がある。
- ルーヴル美術館の美術学校に留学されていますが、大学時代から関心がおありだったのですか?
雨宮さん:いえ大学では英文科で美術とは全然違うことをやっていて、でも美術はいいなぁとずっと思っていました。小さい頃から美術だけは成績がよかったので好きではあったのですが、本格的に勉強したいと思ったのはTBSに入社してからですね。
- 私のことを言って恐縮ですが初めての海外旅行がパリでルーヴルに衝撃を受けて1週間で5日も通ってしまったこともあるので、ルーヴルには少々思い入れがあるんですね。だから、ご経歴を拝見してとてもうらやましかったんです!ルーヴルの美術学校でのご専攻は?
雨宮さん:私は聴講生だったのですが、3年間在籍しました。ルーヴルのプログラムは、先史時代から中世、ルネッサンス時代、現代美術の3本柱で成り立っていたんですけど、それを1年間でひとつずつ全部で3つ専攻しました。でも、初めの頃は語学もちんぷんかんぷんで、勉強したうちに入らないかもしれないですね(笑)。テープ等には取ってましたが、理解できていないところも多かったと思います。
そういうふうにどっぷり美術に浸れる機会は、パリに来てからです。そういう環境に身を置きたかったので。それは、日本にいてはできなかったし、時間もないとできなかったことですね。
- 聴講生として飛び込む勇気はすごいですよね。“憧れる”と“行動する”の間のギャップの大きさに打ちのめされます。
雨宮さん:いえいえ、正規の学生は大変ですけど聴講生はそんな勇気はいらなくて。最初は正規の学生というのも考えていたのですが、最初から厳しくするとパリが苦しくなるよ、というアドバイスがあったので、まずは楽しもうと聴講生として入りました。
- その頃の生活は、「金曜日のパリ」の本で楽しく読ませていただきましたが、最後、唐突に結婚されて妊娠されてらっしゃいますね。(補足、最後のほうであくまでもパリ在住の人気パティシエとして青木定治氏を紹介なさっていたと思ったら、十数ページ後にそれがきっかけで入籍なさったことをさらりと書いていらっしゃる)
雨宮さん:あの本は、ある女性誌で連載していたものなのですが、結婚後、連載を一時中断して本にまとめる準備をしていた時、妊娠が判明したんです。結果、あとがきに出産したことも書き加えたのでああいう形になっちゃったんですよ。
- 1冊目の「金曜日のパリ」は非常に自然体でありながらも異国での立ち位置を探るような緊張感がある本で、2冊目はすごくゆったりして母の視点というかすごく視野が深く広がっていていいな、と思いました。
雨宮さん:そういっていただけるとありがたいのですが、むしろ狭くなってきた気もするんですよ。
- 狭いというよりは、育児の中で自分の時間も、自然に生活のなかで調和しているという気がします。
アナウンサー時代もブラウン管から拝見していて、たいへん頭の回転の速い方でいらっしゃるのに、かつ天然で親しみやすくいらっしゃるところのギャップがすごく好きだったのですが、文章も、読んでいて背すじがぴーんと伸びるのに、堅苦しくない。硬質な文章なのにしなやかさがある。女性的な繊細さがあふれているのにどこか男性的な部分もあるという二面性が興味深かったのですね。テレビでしか存じ上げない人にとっては、かなり男性的な感じがする文章だと思うのですが、読んだ方に驚かれませんか?
雨宮さん:親しい人には、文章の方が近いらしいです。アナウンサー時代の頃も、私の一面であることは間違いないのですが、実像と少し違うよね、とよく言われてました。
- すごく魅力的な文章を書かれていて、本当に惚れ込んじゃいます。
雨宮さん:ありがとうございます。
■時間は自分で作り出すもの
- 次に、育児と仕事についてお伺いします。自然体でお仕事をしてらっしゃる印象がありますが、雨宮さんにとって現在の仕事の位置づけとはどういうものでしょうか?
雨宮さん:そうですね。会社を辞めたのは、自分の好きな仕事をやりたいという思いがありました。会社員だと断れない仕事もありやらなければいけないこともあります。フリーになったことで、僭越ながらも自分のしたい仕事を選ばせていただける立場になれ、とても恵まれていると思います。自分で選んだ仕事なだけに、それに伴う責任を取る腹づもりもできます。育児をしているので時間的な拘束が短いのもありがたいですし。普通に働いてる方には優雅だね、と言われちゃいそうですが。
- 原稿はいつ書いていますか?1日のうちのどの時間ですか?
雨宮さん:全く書かないときもありますし、締め切りが迫ってくるとたくさん書くときもありますね。
余裕があるときは、子供が二人共、偶然同時に寝てくれた時や朝方早く起きたりしたときに書き、せっぱつまってくると、ベビーシッターさんにお願いして無理やりでも時間を作り、カフェなどに行って原稿を書いてます。パリのカフェは、周りもあまり気にしないのですごくいいんですよ。
- 素敵ですね!お姿が目に浮かびます。お子さまが生まれたことによってますますメリハリが出ているのでしょうか?
雨宮さん:はい。子どもが産まれてからは、時間があるときにやればいいや、という逃げができなくなりましたね。時間は自ら作るものというか。
- そうですよね。母になると、時間は自分で作ったり買わないと、ただ「時間がない」で終わってしまいますよね。
雨宮さん:そうそう、気分じゃない、という言い訳も通用しないし。もう、ここしかない、という状況。
- また子どもって不思議と、ここ、という仕事のときに体調崩しますよね。
雨宮さん:ええ、そういうことありますよね。
- 旦那様も大変お仕事忙しいかと思いますが、家事の分担はどうしてますか?
雨宮さん:家事は分担できてないですね。ほとんど自分ですね。彼の帰宅が毎日深夜なので、平日は子どもと一緒に寝ちゃったりもします。休日は彼がご飯を作ってくれたり、最近、平日もたまに幼稚園に送ってくれたりしますね。
- なさそうに見えますが何か生活で大変なことはありますか?
雨宮さん:彼が月に1回は日本に帰ってしまうので、いない時は、まぁいても(忙しいので)変わらないのですが、子どもが二人とも病気したりすると心細いですね。それくらいですね。あとは、父親はこういう仕事なのだからと、腹はくくっています。
■フランスの子育て事情、勉強と食についての意外なこと
- 日本では今、少子化なので、フランスの子育てや育児事情が注目されてますが、ずばり日本とフランスの育児に関する考え方の違いは?
雨宮さん:フランスの人は子供を産んでも、子どもは子ども、自分は自分、で自分の人生を生きていますね。子どものために何かを犠牲にする、という感覚が一切ないと思います。
- だからたくさん産めるのでしょうか?
雨宮さん:そうですね。産前と産後で環境をガラっと変えなくてもいいので、迷いがないですね。今の環境を変えずに子どもを育てられるので。
- 私は会社員をやりながら子どもを産んだので、育児休職時も孤独で、復帰してからも肩身が狭くって。フランスではそういうことがあまりないのでしょうね。
雨宮さん:はい。フランスでは、みんな子どもを産んでも働くのが当たり前なので、環境というかサポート体制などが整ってますね。あとは、べったり子どもとの時間を作るというよりは、メリハリをつけていて、ベビーシッターさんや託児所等、お金で解決する部分が多いけれども、子どもの文化的な催しには熱心だったり、すごくメリハリが効いていると思いますね。
- なるほど。メリハリ、いい言葉ですね。だらだら過ごすより、自分の時間と子どもといる時間とメリハリをつけている。ところで、ご主人はパリを拠点にされてますが、今後お子さんにはフランスで教育を受けさせるご予定ですか?
雨宮さん:ええ。
- それはうらやましいですね。お子さんの幼稚園生活はいかがですか?
雨宮さん:今、幼稚園に通い始めて1年目なのですが、やはりまだ言葉の壁があるので、友達ができづらかったり、毎朝泣いたりしてましたが、最近ようやくだいぶ慣れてきました。
- 家では日本語?
雨宮さん:はい。
- じゃあバイリンガルですね。
雨宮さん:そうなるといいんですけれど。時々ませたことを言うぐらいおしゃべりな子なので、フランス語の環境だと伝えたいことがブロックされてそれがストレスになっている気はします。でも、ちょっとずつ(フランス語も)話せるようになってきました。
- 子育ての悩みはありますか?
雨宮さん:悩みというか、やっぱり子どもに友達が出来づらかったり、泣いて帰ってきたりということがあると、こっちもせつなくなってしまいますね。
- それはせつないですね。
雨宮さん:あと、逆にこっちは勉強、勉強、という感じなんですね。意外かもしれないですけど。例えば友人の小学校1年生のお子さんなどは、6時まで学校で復習して、家に帰ってさらに家庭教師のもと、勉強しています。日本人の子なのですが、(フランス語の)書き取りなんかがどうしても他の子より遅れるので追いつかせるために勉強漬けにならざるを得ないのです。日本では土いじりだったりびのびした教育がある、と聞くとうらやましくなります。
- 日本でも中学受験のために小学校3年生くらいから塾通いってありますけど、でもフランスはのびのびしている印象を勝手に持っていましたが。
雨宮さん:いいえ、むしろ勉強、勉強、という感じですね。
- 日本の育児情報はあまり気にしてないですか?
雨宮さん:はい、あまり気にしないようにはしています。子どもの日本語のために、週に1回日本語の学校には通わせようかなと思っています。

■小さなパリジェンヌ
- それでは、新しい本小さなパリジェンヌについてご紹介いただけますか?
雨宮さん:フランスの雑貨やモノの紹介、そのモノへの思いから、時にはパリのライフスタイルや社会の背景にも話をふくらませたつもりです。モノの写真がどーんとあって、そこに文章をつけている、というエッセイですね。
頑なだけれど自然体――そんな生き方、暮らしぶりが
鮮やかに伝わってくる、雨宮塔子の書き下ろしエッセイ
渡仏から結婚・出産までの4年間に渡って綴ったエッセイ『金曜日のパリ』は、同年代の女性たちから多くの支持をうけ、ベストセラーとなりました。あれから4年。雨宮さんは2児の母となり、子育てに追われる毎日を送っています。本書は、今の雨宮さんの生活になくてはならない、愛おしいものを題材に、日々の思いを書き綴ったエッセイ。・・ものの写真を通して、パリでの暮らしぶりがリアルに伝わってきます。アート、モード、グルメといった華やかなパリではなく、地に足のついた生活をしているからこそ見えてくる“もうひとつのパリ”がここにあります。
- 写真も雨宮さんですか?
雨宮さん:写真はいつもの篠さんです。篠ワールドが展開されてます。実は、らむねさんから頂いた漆器も紹介してるんですよ。あれは昔から好きな漆器で、日本のもので唯一登場していて、食育にからめて書いてます。
- 小さいうちから本物を使うっていいですよね。食のことも今までたくさん取り上げてらっしゃいますが。日本では今いかに簡単かというのが凌駕していて、でもフランスはいかに食に手をかけてるかというのが主流な気がしたのですが、いかがですか?
雨宮さん:逆ですよ逆。手を抜いている人は多いです。ひどいところでは、パスタにチーズを絡ませただけのお昼を食べさせたり。離乳食でも、日本では細かなレシピもありますがフランスでは見たことがありません。だから市販の瓶詰めのみの食事で済ませてしまう人もいます。離乳食をきちんと作ってるお母さんは知らないですね。でも食は大事な国なのでマルシェやスーパーで食材を買って、夕食はきちんとつくっていますが。子どもの栄養バランスをすごく考えているとは、私は思えないですね。
- えー、意外ですね。フランスこそ、小さな頃から食に関して力を入れそうなのに。意外です(笑)。ところで、お子さんはお父様の影響でお菓子好きなんですか?
雨宮さん:そうですね。特に息子のほうが好きですね。娘は私に似てお菓子の中でも好みがうるさい(笑)。息子は彼に似て甘いものなら比較的何でも好きです。
■理想は“自分の人生を謳歌していて、子離れできていて、でも愛情たっぷり”
- 雨宮さんが今後トライしたいことについてお伺いしてもいいですか?
雨宮さん:書く量をもう少し増やせれば、とは思います。でも、時間的には今でいっぱいいっぱいですね。書く分野ももうちょっと広げられれば、と思っています。
- ぜひ小説も、お書きになってください!
雨宮さん:小説は、もう、自費出版で(笑)。そうなれればいいなとは思いますけど。
- 目標にしてる方はいますか?
雨宮さん:私それが、いないんですよ。フランス人女性は見てていいなと思いますけど。自分の人生を謳歌していて、子離れできていて、でも愛情たっぷり、みたいな。
- 「子供がいるからという理由で物事を諦めるのは、子供を盾にした自分への言い訳」という雨宮さんの言葉にワーキングマザースタイルのスタッフも皆、感動・賛同していて、私も全くその通りだと思うのですが、仕事か育児か、と2者択一で考えてしまって悩んでいる方や、仕事と育児のバランスの取り方に悩んでいる女性に何かメッセージはありますか?
雨宮さん:子どもに我慢を強いたりさびしい思いはそれはさせていると思うけど、外で仕事をしていて自分というものを保てる分、子どもにもいい笑顔を向けられる、そうして本当に愛情を示すことができる。私にはそれしかできないですね。
- 時間と愛情を、その人なりにきちんと示せればいいのだけど、こうじゃなきゃいけない、という思い込みがあるかな、って思いますね。
雨宮さん:仕事を辛そうにしていると子どもにも影響はあると思うけれど、仕事をしているお母さんが魅力的に映れば、子どもも将来自分もそうなりたいと当たり前のように思うようになる、そういうことが伝えられればな、と思います。
- お母さん自体が幸せであることって重要ですね。普段、疲れまくってる自分を猛烈に反省しました。
雨宮さん:それはそれで我慢しなくていいと思うんですよね。ダメなときは、あぁ、仕事は大変なんだ、と思ってくれて、でもそれはいつもじゃなくて。でも自分に愛情を向けてくれていることは子どもは絶対わかってくれると思います。
- ありがとうございます。ふっと楽になりました。映像と執筆のお仕事をやってらっしゃいますが、今後のお仕事についてはいかがでしょうか。
雨宮さん:映像は時間的な拘束が大きいので、子どもが小さい今、これ以上入れるのは難しいかなと思ってます。スタッフみんなで作り上げるのは好きなので、細々とでも続けていければいいのですが…。
- アナウンサーという憧れの職業からリセットし、日本から遠く離れたフランスでとても自然体に生活をしてらっしゃって、私達も拝見していてすごくハッピーになります。
雨宮さん:そう言って頂けるのが一番うれしいです。
- 今度の新しい本もすごく楽しみにしています。それだけでなく、「それからのパリ」については、食についてや親の本質についてとても素敵に書かれていて、ワーキングマザーにぜひ読んでいただいて、雨宮さんの魅力をより一層知っていただきたいですね。
雨宮さん:ありがとうございます。
- 最後に、同志といったら失礼かもしれないですが、ワーキングマザーである私たちにメッセージをお願いします。
雨宮さん:サイン会をやらせていただいた時、雨の中ベビーカーで来て下さった方がいて、その姿にすごくじーんときました。辛いときや大変な時に、他にも大勢同じ、いえ、もっと大変な環境の方がいることに思いを馳せることで救われることがあって、私自身、励まされている部分が実は多いんです。文章を書くことの背中を押してくれているというか、すごく励みになっています。こちらこそワーキングマザーのみなさんにお礼を言いたいんですよ。
- 旦那様のお菓子も大好きなのですが、旦那様はスイーツで私達をハッピーにしてくださって、雨宮さんは文章やそのライフスタイルで私達をハッピーにしてくださって、お二人には心から本当にありがとうございますと言いたいです。今後のご活躍、心からお祈りいたします。
●インタビューを終えて
すっかりファンモードになってしまって、お恥ずかしいかぎり。でも雨宮さんは初対面の、かつSkypeでのインタビューという条件でとても丁寧に親切に答えてくださいました。言葉をしっかり選んで、かつ何度も周囲の人々への感謝の言葉を口になさる雨宮さんにすっかり魅了されてしまいました。知的な文章が魅力的なエッセイストとして、またパリで大人気のパティシエの奥様として、日本とフランスの文化の架け橋としてのご活躍を心から期待しております。(村山らむね)